syu ü e Roman

掃いて捨てるショートショート。

公園

 

ラブホテル街のすぐ隣にある公園。

そこが僕の憩いの空間になった。
静かな公園。
その空間はある種、「感情」を孕んでいて、それでいて人を落ち着かせる何かがある様だった。

 

昼過ぎ、僕は自動販売機でエナジードリンクを買って、公園へ向かう為にラブホテル街を通り抜けようと歩くと、ホテルから出たであろう熟年カップルが幸せそうに手を繋いで歩いてる。
全く平和でしかない。


僕の目の前を風俗嬢と思われる中年の女と、客と思われる小太りの男が手を繋いで、歩いている。
僕は彼女達が公園前を通り過ぎていくのを見送る。

公園に到着してベンチに座ると、死んだ顔したサラリーマンがボトルコーヒーを一口飲んでは溜息、一口飲んでは溜息と呼吸代わりの溜息をくり返す。

浮浪者が大量の荷物を積んだ自転車を停めて煙草を吸ってる。
ここは禁煙なんだけどな。

作業着のおっちゃんも気をつけるのをやめたのか、誰かに電話をしながら煙草に火を点けた。
大きな声で建具の話をしているみたいだ。

その横で、僕はいつもの様に人生について考えている。

さっきの風俗嬢と思われる女が公園の水飲み場で、手を洗って出ていった。
執拗に洗っていたみたいで、それを見て少しだけ悲しくなった。
客の男に感情移入した訳ではなく、彼女の手首が浅黒くて簡単に折れてしまいそうで、まるで不健康な木の枝の様だったから。

 

この時間帯には大抵、主夫と思われる男が入って来て、いつもトイプードルを野に放って散歩させてる。
主夫が公園を出ようとするとトイプードルが嬉々と走って追っていく。
これは殺伐としたこの公園が、一瞬だけ見せる唯一の笑顔だ。

主夫は強めにパーマをあてている。


近くのラーメン屋の店員と思われる男が、ベンチに座って、着けていた赤いバンダナを頭から外して顔に掛けて上を向いてる。
腕を組んで、その男も溜息をついている。

僕はラーメン屋とサラリーマンのため息が重なる事を期待しているが、中々合わない。


ホテル街の隣なんて場所にある公園だ。
治安は良くないんだろう。
空き缶やらコンビニ弁当、ちり紙、タバコの吸い殻が散乱してる事もある。
今日はよく汚れていた。

浮浪者が煙草を何本か吸い終えて、空き缶だけ幾つか回収して公園を出て行った。
アルミ缶とスチール缶で要否を判断したのだろうか。

今までは気に留めた事もなかったのに、要否で分別している様な行動を見て、あれは仕事なのだと分かった。
自分が酷く無知だったのではないかと恥ずかしくなる。

 

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公園は、人を血の様に入れ替えて、色々な表情を見せる。
僕が座っている1時間の内、約30分程度を区切りにして、人が完全に入れ替わった。

入れ替わった後も、別の誰かは溜息をついている。
誰かは電話でそのまた誰かを怒鳴っている。

表情が変わっても結局、本質は同じで、当たり前だけれど、僕もその本質に取り込まれている。

僕は禁煙と掲示板に大きく貼り出されているから、そこで煙草を吸う事はしてないのに、気付くと口にくわえていた。
気付いて煙草を箱に戻す。
誰かに「別に気にしなくても良いのに」と言われている気がした。


時間が進まなくなった頃、気付けば公園を出る時間になっていた。
喫煙の欲求を押さえつけてベンチを立つ。
きっと誰かと入れ替わる時間なんだ。
公園を出ると、喧騒がより騒がしく聞こえた。

エナジードリンクの空き缶を捨てて、歩き出す。
前からは、さっきの風俗嬢と思われる女が、また別の客と思われる男と腕を組んで向かってくる。
勿論、僕等は目を合わせる事もなくすれ違った。
彼女は人気の嬢の様だ。


よく考えると、あの公園は簡素な遊具はあるのに子供の姿を見た事はない。
まぁ、立地を考えると当たり前なのかも知れないけれど「これまで」と「これから」を切り替えるスイッチの様な場所で、感情を巡らす大人だけの場所と言って良いのかもしれない。